aimee-mehren’s blog

生命倫理を専攻する大学院生のブログ

「延命治療をしない」ー本当に本人の意思を尊重するためにー

2018年9月18日

 

こんにちは、まなです。

 

2018年9月6日、以下のような記事が朝日新聞に掲載されました。

www.asahi.com

 

www.asahi.com


最期の時に延命治療を望まない患者さんにどのように対応したらよいのでしょうか。生命倫理の視点から考えます。

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ざっくりいうと…

・最期の時、蘇生を望まない人が増えている
・事前に「延命拒否」の意思を表明しておくことが重要
・ただし本人の「自由で」「自発的な」意思であることが大事
・家族も勝手に判断しないよう注意が必要

 

 

 

記事内容

救急現場で、患者の心肺蘇生を拒否する意思を、家族や介護職員、医師が救急隊員に伝えるケースが増えています。蘇生中止に関しては規定がないため、救急隊員は難しい判断を迫られると言います。

心肺蘇生を拒否する医師が示された場合、対応方針を決めている消防本部(全体の45.6%)では、「心肺蘇生を実施しながら医療機関に搬送する」、「医師からの指示など一定の条件の下、蘇生を実施しない、または中断できる」といった措置をとっているそうです。

救急車を呼んだ家族は、病状が急変したり悪化した患者を前に、「気が動転、パニックになった、どうしたらいいかわからない」という理由で119番通報をしている場合が多く、また「家族間の情報共有不足や意見の不一致」が理由のこともあります。本人や家族が蘇生を望んでいなかったとしても、遠い親戚が救急車を呼ぶべきだと異議を唱えることもあるのです。

厚生労働省が3月に改定した終末期医療の指針では、最終段階で受けたい治療やケアを家族や医療者と話し合って記録に残す「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の考えが盛り込まれることになりました。

 

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患者の権利

最期の時に蘇生を望まないなど、治療を拒否する権利は、現代では患者の権利の一つとして一般的に認められています。

1973年に米国病院協会が公表した「患者の権利章典」には以下のような権利が盛り込まれました。
・尊敬を持って処遇される権利
・診断や予後に関するすべての情報を提供される権利
治療を拒否する権利、治験参加を拒否する権利
・プライバシー秘密が保持される権利
・医療提供の要求に合理的な対応を受ける権利

また、1981年以降何度か修正を重ねている「患者の権利についての世界医師会のリスボン宣言」でも、
・良質の医療を受ける権利
選択の自由の権利
自己決定の権利
・情報を得る権利
守秘義務に対する権利
・健康教育を受ける権利
・尊厳に対する権利
・宗教的支援に対する権利
などが謳われています。従来の医の倫理が重視した患者の利益だけでなく患者の自律を保障したことはリスボン宣言の意義の一つと言われています。

このように、現在当たり前のように守られるべきとされている権利と同列に「治療を拒否する権利」は認められているのです。

 

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本人の意思

医療行為を行う際、患者本人の自由で自発的な同意を得ることは「人間の尊厳」を守る上で重要です。

例えば、本人の個人的な価値観に基づく治療拒否の意思を無視して、「本人のため」と治療を強行することや、反対に、介護する家族に「迷惑をかけたくない」という理由で延命措置を拒否することも、本人の自由で自発的な意思が十分に保障されていないので「人間の尊厳」が尊重されていないことになります。

回復の見込みがない末期状態の患者に対して、延命治療を開始せず、あるいは開始した延命治療を中止して、人間としての尊厳を損なわずに死を迎えさせることは、「尊厳死」とも呼ばれていますが、本当にその患者さんの尊厳が尊重されるためには、それが本当に本人の自発的な意思によるものなのか確認することが欠かせないと言えます。

 

 

事前指示

終末期に、意識がなくなってしまうなど自分の意思を表明できなくなった時のために、終末期医療に関する意向をあらかじめ表明しておく、口頭や書面の意思表示を「事前指示」と言います。

事前指示に関して、日本には法律はありませんが、一定の要件が満たされていれば法的にも有効だと考えられています。

また、2008年に出された日本医師会の『終末期医療に関するガイドライン』でも「患者の口頭による意思表示のほかに、患者が正常な判断ができない状態では、患者の事前の文書による意思表示を確認することが重要である」としています。

事前指示には、「本当に患者がそう思っているのかわからない」という問題もあります。例えば、患者が事前指示を作成した後に考えを変えるかもしれませんし、事前指示を作成した後に認知症になるなどしてその性格が大きく変わってしまうかもしれません。また、事前指示を作成した後に新しい治療法が開発されるなど、周囲の状況が変化することもあり得るので、そうした将来の状況を正確に予想して事前に適切に指示しておくことなどできない、という考えもあります。

そのため、事前指示を作成する際には、患者が医療チームとよく話し合うことや、医療チームや家族と相談しながら事前指示を定期的に見直すことが求められます。また、事前指示を作成した後に患者の性格が変わった時には、患者に苦痛がない場合は事前指示を適用しないことも必要かもしれません。

 

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家族の意思

本人の意思がはっきりとわからず、事前指示もない場合には、家族が代理で判断することもあります。今回の記事で蘇生拒否の意思を救急隊に伝えていたのも多くが家族でした。
しかし、本人の意思や利益に反する決定が下される可能性も出てきてしまいます。例えば、遺産相続に関わる場合や、「迷惑な存在のやっかい払い」とみなされうる治療拒否などです。

家族が判断するというよりは、家族が本人の意思を「代弁」できるためにも、やはり事前に緊急時の蘇生について(家族や医師など複数の人に)話しておくこと、書面で残しておくことが大事だと言えるでしょう。そのことが、家族に心の準備を促し、緊急時にパニックを起こすのを防ぐことにもつながるかもしれません。

 

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私たちにできること

・自分が終末期になった時には、事前に意思表示しておく
・周りに終末期の人がいる時には、その人の意思を聞き、話し合っておくようにする

(近しい家族でなくても、いろんな立場の人が聞いてあげることが大事な時もあります。むしろ近しい家族にはなかなか言えないこともあるかもしれません。)

(また、家族の立場として、本人が死ぬことについては話しづらいという人もいるでしょう。蘇生拒否の強い意思がなければ、患者さんは何も言わないかもしれませんし、わざわざ無理して聞き出すことはしなくていいかもしれませんね。)

 

また次回も

生命倫理に関する記事を上げていきます。

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クリスパーキャス9(ゲノム編集技術)の倫理的問題

2018年8月22日

こんにちは、まなです。

 

8月17日、朝日新聞の一面に以下のような記事が載っていました。

 

www.asahi.com

この記事では、ゲノム編集技術を紹介するとともに、生命科学分野での中国の台頭について説明しています。

 

中国の研究については続いて二面にも紹介がありました。

www.asahi.com

 

 

今回は、記事の内容を簡単にご紹介しつつ、遺伝子を操作することで病気を治療する「ゲノム編集技術」の問題に焦点をあてて考えてみます。

 

ざっくりいうと…

・遺伝子を操作する「ゲノム編集」が治療として使われ始めている

・治療としての効果はまだ未知数

・安全性なども含めて倫理的問題も多く、使用には慎重な意見も

 

 

 

 

ゲノムと病気

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ゲノムとは、遺伝子の総体のことを表します。

両親から半分ずつ受け継いだ遺伝子の組み合わせが特殊なものであったとき、特定の遺伝子が生まれながらに欠損・変異していたり、あるいは遺伝子が後天的に傷ついた場合にも病気になることがあります。

遺伝子疾患としてはダウン症血友病ハンチントン病などが挙げられます。また、がんのように環境要因が複数の遺伝子変異を引き起こし発症に至る病気もあります。

疾病や体質と遺伝子との関連についてはここ数年で研究が大きく進んでいます。

 

ゲノム編集とは?

遺伝子の本体であるDNAに切り込みを入れて一部の遺伝子の機能を停止させたり、特定の遺伝子を組み込むことをゲノム編集といいます。

今回記事で紹介された「クリスパーキャス9」は、DNAを切断したり張り付けたりすることが容易にできる新しい技術です。

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記事内容

<一面>

中国の病院では、ゲノム編集技術「クリスパーキャス9」が実際に治療に使われ始めている

クリスパーキャス9は、細胞の遺伝子を操作する技術(免疫の力でがん細胞をたたくことなどが可能)

・生まれつき身が多い魚や筋肉量を増やしたブタ、遺伝性難病を発症するサルなどの誕生に成功

・人体への応用については、安全性や効果はまだ確かめられていない

・予期せぬ遺伝子の改変など、危険もありえるため、欧米は慎重な立場

・中国はアメリカに比べて審査がゆるいため、臨床研究を早くに始めることができた

・すでに30人の患者を担当した医師もいるが、効果はまだ明らかになっていない

 

<二面>

・中国は、日本も含めて優秀な研究者を多く引き抜いている

←研究者も審査がゆるく早く研究を進められる中国に魅力を感じている

・しかし、臨床研究では患者の健康を脅かす恐れもあるため、審査のゆるさは危険でもある

生命科学分野はビッグビジネスでもあるため、中国では国から多額の資金が提供されている

(そのため優秀な研究者を高い報酬で雇うことができる)

・科学分野全体でみれば研究開発費は今年アメリカを抜いて一位になる見込み

・2015年、中国ではすでに受精卵の編集が行われた

→これを受けて、アメリカで新たな国際的ルールを作る動きが出てくる

→国際会議で、遺伝性疾患の治療目的であればゲノム編集技術の使用を認めることが決定

・中国は、再生医療に関するルール作りにも参加するなど(自国に有利なルールを作り、その分野で優位に立つため)存在感を大きくしている

・日本は、中国を欧米と同じ土俵に引き込むように働きかけるべきだろう

 

 

ゲノム編集(遺伝子操作)の問題点

遺伝子組み換えベビーの可能性と問題については以下のページでも簡単に紹介しています。

aimee-mehren.hatenablog.com

 

前述した通り、「クリスパーキャス9」はDNAを切断・張り付けを容易に行える技術です。こうしたDNAの改変、つまり遺伝子の組み換えを人間に対して行う場合にはどのような問題があるのでしょうか。

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 ①安全性の問題

・オフターゲット

クリスパーキャス9は、DNAを自由に切断したり張り付けたりできる技術だと紹介しましたが、DNAの中の切断する部分を正しく見つけられない場合があります。

この問題については、ゼロリスクは大変難しく、ほぼ不可能だとも言われています。

 

・がん化の危険

クリスパーキャス9を用いた細胞はがん化するリスクが高いことがわかっています。しかし、技術を用いてからどのくらいでがんになるのかわかりませんし、遺伝子操作ということもあって、このリスクは世代をまたぐかもしれません。

どれくらいのスパンでがん化を確認し、危険だと認定すればよいのか、判断がついていない状態です。

 

・不可逆性

DNAのどの部分を改変したのかは、あとからはわからないといいます。

もちろん、記録を残すことはできますが、記録が失われてしまえば、その変化は取り返しのつかない、不可逆的なものになってしまいます。

 

②命の選択の問題

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・優生思想への傾斜

優生思想とは、身体的・精神的に秀でた能力を有する者の遺伝子を保護し、逆にこれらの能力に劣っている者の遺伝子を排除して、優秀な人類を後世に遺そうという思想です。人種差別や障害者差別を正当化してしまう考え方にもつながります。

遺伝子操作を行うということも、ある遺伝的特徴を「本来あるべきでない」と捉えることであるため、そうした遺伝子を持つ人に対する差別や偏見につながるのではないかと懸念されているのです。

 

着床前診断との関わり

単に遺伝的疾患をなくすためなら、着床前診断体外受精を行い、その受精卵を調べ、遺伝子異常が見つかれば着床させずに廃棄し、もしリスクがなければ母親の子宮に戻して着床させる)で足りるという考え方もあります。

遺伝子異常をもつ子どもが生まれなければ、遺伝子操作をして異常を取り除く必要もないからです。

もちろん、遺伝子異常をもつ子どもを産まないという時点で命の選択は行われており、上のような優生思想の問題にもつながります。

 

③ゲノムプールの問題

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遺伝子は長い歴史の中で祖先から脈々と受け継がれてきたものです。こうした継承の中で多様性も生み出されてきました。

このように長く受け継いできたものを人為的に変質させてよいのかという問題があります。

しかしこの考え方に対しては、結婚で人為的に相手を選ぶなど、どのような遺伝子を受け継ぐかは今までもある程度人為的に操作してきた、といった反論や、

遺伝子操作を行うことでより多様性を生み出せるかもしれないという考え方も対峙されています。

 

④自然の秩序に反する

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・遺伝子を人工的に改変することは、自然の法則に反している、そのようなことはすべきでない、という考え方があります。

しかし、病気を薬や手術で治したり、あるいはもっと日常的な例を考えれば、エアコンを使って空間の温度を変えたりすることも自然の秩序に反していると言えるかもしれません。

・また、自然法則に完全に反しているのならば、そもそも遺伝子操作などできないはずだ、という意見もあります。

 

⑤民主主義の前提に反する

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ドイツの哲学者、ハーバーマスによれば、民主主義の前提は各人の「偶然と努力と才能」だといいます。各人が偶然生まれつき手に入れた資質だけでなく各自の努力によっても才能を開花させ、社会に貢献していくことで豊かな社会は成り立つということです。

「偶然」とは生まれもった資質ということですが、人為的に遺伝子を改変することが可能になれば、「生まれもった資質は偶然手に入れたものであり、偶然であるという点で皆平等である」、という前提が崩れてしまうことになります。

確かに、人は生まれもったものだけでなく、親による教育や育つ環境によってもその人生を左右されるため、生まれもった遺伝子だけが「偶然」の要素であるわけではありません。

しかし、遺伝子操作の技術が広く使われることによって、遺伝子の改変が行われている人と行われていない人の間の能力格差や経済格差が不適切なレベルにまで拡大してしまうのではないかということは十分に考えられます。

 

⑥人間の条件/尊厳に反する

人間は弱さや脆さをもともともっている生き物であり、そのために連帯して生きていくことが前提だと言われています。

そのためゲノム編集は、この「連帯」という前提を壊してしまうのではないか、という懸念があります。

しかし、この考え方に対しては、「人間は不完全である、だからこそ完全なものを目指すのだ」という意見が述べられます。また、遺伝子の異常によって悲惨な人生を送る人の数を減らすことができるのはいいことなのではないか、と考える人もいます。

また、ヒト胚にも尊厳があるため(生命それ自体の不可侵さ、神聖さを大事にしなければならないため)、受精卵に対する遺伝子操作などはなされるべきでない、という主張もあります。

 

⑦親の決定権と子の福祉

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受精卵に対するゲノム編集など生まれてくる子どもの遺伝子を操作する場合、どのように操作するのかは親が決定することになります。

遺伝子異常による病気を防ぐ、といった理由であれば、本人の意思でなくても介入していいのでしょうか

まだ生まれていない子ども、あるいはその先の未来世代の同意をとることなどできないため、難しい問題です。

 

このほかにも、遺伝子情報に関わるプライバシーの問題や、エンハンスメント、どのように市民で議論を進めていくのか、などなど様々な問題が考えられます。

 

私たちにできること

・ゲノム編集の問題点や危険性を知ること

・ゲノム編集をもし将来利用するときには、こうした問題も知った上で判断すること

・ゲノム編集は夢の新技術でもあるが問題も多いので、安易に推進しようとしないこと

 

また次回も

生命倫理に関する記事を上げていきます。

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精子提供の希望と問題点

2018年8月14日

こんにちは、まなです。

 

 

8月3日、ハフポスト日本版に次のような記事が掲載されました。
 
Xジェンダーでありアセクシュアルでもある華京院さんは、アメリカの精子バンクを利用して第一子を出産しました。今回は、精子提供という技術の希望と問題について考えてみようと思います。
 
ざっくりいうと…
精子提供はセクシュアルマイノリティやパートナーをもたずに出産することを望む人にとっての選択肢の一つになる
●生まれた子どもへの告知が十分に行われないと、子どもにとって悪影響があることも
 
 
 
 
まず、記事の中でどのように紹介されているのかまとめてみます。
 

Xジェンダーとは

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今回の記事に登場している華京院さんは、自らをXジェンダーだといいます。Xジェンダーとは一般的に、自分の性について、男女どちらでもない、もしくはどちらでもあるといった立場をとっている人のことです。
Xジェンダーの方々の自助サークル「label X」のホームページでは次のように説明されています。

Xジェンダーとは、身体の局所的な部分や特徴もしくは社会的な性役割に対し、性別違和や嫌悪感を抱いているが反対の性になりたいとまでは強く望まない人々のことです。」
しかし、自分の性について「『決めたくない』という個人の意思に基づいた意識とは違」うといいます。
 
また、「Xジェンダーは生まれたときに割り当てられた性と反対の性で扱って欲しいわけではありません。そのため服装やしぐさ、言葉遣いなども必ずしも生まれたときに割り当てられた性と反対の性を強調している人ばかりではありません。ただし生まれたときに割り当てられた性に対する嫌悪感が強い場合は生まれたときに割り当てられた性の特徴を消す手段として、あえて生まれたときに割り当てられた性と反対の性を強調することはあります。」ともあります。
 
多様な人々を含むため、定義が難しいですが、間違った解釈は避けたいですね。
 

 

  アセクシュアルとは

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LGBTメディアの「Rainbow Life」のホームページでは、アセクシュアルとは「性別に関係なく、他者に対して恋愛感情や性的欲求を抱かないこと」だと説明しています。

 

lgbt-life.com

また「アセクシュアルの方は恋愛感情や性的欲求は抱きませんが、友情も愛情も抱」くといいます。記事で取材を受けている華京院さんも「『(恋愛的に)好きな人がいない』と言うと『冷たい人』だと思われた」と述べていますが、「アセクシュアルから冷たい人だ」というのは大きな誤解・偏見であることがわかります。 

 

 

精子バンクを選ぶ理由

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華京院さんは、パートナーをもたずに子どもという家族をもつとき精子提供という方法を選んだといいます。

 養子縁組制度は最低条件として結婚している夫婦であることが求められ使うことができず

見知らぬ男性に声をかけて、ワンナイトラブをして子どもをつくってしまうことにも(人を騙すことになるために)抵抗があったからだといいます。 

 

また、知人ではなく精子バンクからの精子提供を選んだ理由として、頼んだ知人男性から後に親権を要求されたり、あるいはその男性に「いつか養育費を求められるかも」といった心配をかけることを避けるといったことを挙げています。 

協力してもらった知人との仲が悪くなることで子供に悪影響を及ぼすことを避けるためにも、関わりのない男性からの精子提供で子供を産むことを選んだようです。 

 

 

精子バンクの利用料と、ドナーの情報

日本では夫婦以外への精子提供は禁止されているためアメリカの精子バンクを利用したという華京院さん。

精子の輸送には特殊な技術が必要であるため、送料は高いところで80〜100万円かかるところもあるといいます。

華京院さんが選んだところは送料が20万円、1アンプル(2ml)分の精子が3万円精子バンクでした。送料はやはり高いものの、アメリカからたった1日で届いたそうです。華京院さんは1カ月に3アンプルずつ使って、2カ月目で妊娠。無事に第一子を出産しました。

 

精子バンクでは、2000円ほど払うと人種、国籍、髪の色・毛質、瞳の色、骨格、身長、体重、右利きか左利きか、本人の趣味、父方・母方の祖父母の病歴や死亡した理由と年齢、本人の遺伝病検査の結果、過去にこのドナーで妊娠した人がいたかどうか......など、多くの細かい情報を知ることができると言います。

 

アメリカでは精子の提供はバイト感覚で、それほどハードルの高いこととは捉えられてないことが多いようです。

 

華京院さんは、将来子どもが真実を知りたいと思ったときに父親がどこの誰かが全くわからないという状況を避けるため、子どもが18歳になったときにコンタクトをとれる方をドナーに選んだといいます。後述するような精子提供の問題(子どもが本当の親について知ることができず悩むケースなど)を防ぐ一つの方法と言えそうです。 

 

 

それでは、精子提供が生命倫理の観点からどのように議論されているのか見てみます。

 

 

生殖医療と倫理

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1970年代以降生殖医療技術が発展し、精子提供による妊娠・出産も行われるようになりました。今回の記事の方のように、初めからパートナーをもたずに妊娠・出産し子育てすることも今では可能です。 

これまでは愛・性・生殖は三位一体でしたが、それが崩壊し、さまざまな家族の形が可能になりました。ヒトの生殖が人工的になることにより、人間の誕生や家族のあり方に新たな倫理観が構築されていく、というのが現在の一般的な考え方です。  

 

 

リプロダクティブ・ライツという考え方

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現在国際社会には、リプロダクティブ・ライツという考え方があります。

1994年の国際人口開発会議で採択された概念ですが、リプロダクティブ・ライツとは、すべてのカップルと個人に「子供の数、間隔、時期を自由にかつ責任をもって決め、またそのための情報と手段を得る基本的権利」のことです。

 この権利を保障するため、会議では体外受精(体外に取り出した卵と精神から受精卵を作成し、その後人工的に子宮内に戻す技術)も推奨しています。体外受精では、子を望むカップルが第三者から精子や卵や胚の提供を受けて実施することが技術的に可能ですが、そのため国内の日本産婦人科学会や厚生労働省精子提供を容認しています(婚姻した夫婦にのみ)。 

つまり、リプロダクティブ・ライツという基本的な権利を保障するためにも精子提供は認められている技術だといえます。  

 

 

精子提供の問題点(特に日本で、夫婦に提供される場合)

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精子提供を用いた人工授精は前述した通り、夫婦に対しては日本でも認められています。しかし、日本の夫婦に提供が行われた場合には、そうしたケースならではの問題があります。

日本では、戸籍上の父母の他に生物学的父が存在していたとしてもそうした事情が戸籍に記録されることはなく、精子提供の実施や生物学的父の存在についての告知をする義務もありません。そのため、精子提供を利用した夫婦が出生に関わる諸事情を告知しない限り、生まれた人が自分の生まれた経緯を知らないということもあり得ます。

「出自を知る権利」の観点から、告知は重要だという認識は広まってはいますが、未だに一般的であるとは言えません。

また日本では、プライバシーの保護を理由に、精子提供者の匿名性が守られており、告知がなされても原則として精子を提供するドナーについての情報は誰にも開示されないため、精子提供で生まれた人は、遺伝的な繋がりがある父親と関係が断たれてしまっています。

こうした事情の中で、精子提供で生まれた人が真実を知ったとき、とりわけ成人してから思いがけないタイミングで告知を受けたとき、その人に大きな喪失感が生じうることがあります。

出生について真実を教えてもらえなかったこと、戸籍上の父と遺伝的繋がりがないこと、生物学的父について何も情報を得ることができないことに衝撃を受け、親や医師に不信感をもったり、激しい抑鬱状態やアイデンティティ崩壊に至る人もいます。  

 

 

まとめ

このように、精子提供は不妊に悩む夫婦やパートナーをもたずに出産することを望む人々にとって希望の技術であり、倫理的にも広く認められつつある技術でもあります。

一方で、精子提供の利用で生まれた子どもへの告知については、まだまだ議論の余地があることがわかります。

今後は夫婦以外への精子提供についても法整備が進められることと、華京院さんのように将来的には子どもに告知ができるようなシステムが整えられることが求められると思います。 

 

私たちにできること

精子提供を受ける人々の事情(今回でいえばXジェンダーアセクシュアル)について理解を深めること

精子提供が一つの権利として認められてきているということを知ること

精子提供を受けるときには、子どもへの告知という問題について意識する 

 

 

また次回も

生命倫理に関する記事を上げていきます。

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「こんな赤ちゃんがほしい!」生殖医療の最前線と倫理的問題(メモ)

2018年6月14日

こんにちは、まなです。

6月12日深夜、NHKのBS1で「BS世界のドキュメンタリー選『オーダーメイド・ベビー』」という番組を放送していました。

www6.nhk.or.jp

このドキュメンタリーでは世界の生殖医療の最前線を紹介しています。

ここで紹介されている一つ一つの技術に対して、本来なら倫理的な問題をきちんと指摘しなければならないのですが、今回は「生殖医療の技術はここまで進んでいる!」という情報を取り急ぎご紹介するとともに、考えられる倫理的問題について簡単にメモしておこうと思います。

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<現在実施されている技術>

●レーダーで受精卵を着床しやすくする技術(インド)

精子バンク。ドナーについて顔や知能指数だけでなく、その声や筆跡などかなり細かい情報までカタログにして公開。(情報が細かい精子ほど高額!)(デンマーク

卵子バンク卵子を売って生活費の足しにすることも。子供を望む両親の手助けであり、自分の子供だとは考えないようにするのだとか。(アメリカ)

体外受精をする場合、男女を選択すること(2万ドル!)とさらに別料金で瞳の色を選択することは可能。肌の色や知能をカスタマイズすることは今の技術ではまだ難しいらしい。(アメリカ)

ミトコンドリア置換。ミトコンドリアDNAにおける遺伝的疾患を受け継がないために、他人の卵子に自分の卵子の核を移植してから人工授精。3人の親から子供が生まれるとも言える?(イギリス)

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<近い将来予想される技術>

卵子を若返らせる新薬

●iPS細胞といった幹細胞から卵子精子の基になる生殖細胞を作る(人工的に大量に受精卵を作成することも可能)

生殖細胞から人工的に精子を作る

●遺伝子組み換えベビー!(DNAを部分的に編集する)

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<倫理的問題>

優生思想につながる(ただし、遺伝的疾患をなくそうとする動きなら、以前から行われてきた。幼くして死んでしまう病気にかかるとか、誰でも避けたい。なんでも自然任せがいいと言えるだろうか?)

●自然の法則に逆らう(突然変異が起きないとか)=モーツァルトのような天才アーティストも生まれないかも?

●自然の法則に逆らう(突然変異が起きないとか)=自然環境の変化に適応できない=人類は滅亡しやすくなるかも

●遺伝性疾患を持った人への風当たりがますます強くなる危険(自己責任だと言われたり…)

●(遺伝など)選べないからこそ仕方ないと受け入れられていたことがある→選べるようになると、ますます不幸に耐えられなくなってしまうのではないか?

●遺伝子操作したのに病気になった…といった不具合が起きた時、誰が責任を取るのか?

 

また次回も

生命倫理に関する記事を上げていきます。

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「子宮移植」の問題点ー(倫理的な問題を考える)

2018年5月10日
 
こんにちは、まなです。
 
今月7日、クローズアップ現代というNHKの番組で、「子宮移植」が特集されました。
 
今回は「子宮移植」の倫理的問題について考えます。
 
 
ざっくりいうと…
不妊治療の新たな希望として「子宮移植」が注目されている
・子宮を提供するドナーへの身体的・社会的影響が心配される
・生まれてくる子供への影響についてまだわかっていない
 
 

子宮移植とは

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子宮移植は、子宮がない、あるいは子宮が十分に機能しないために子どもを産むことができない人が、主に母親や姉から子宮の移植を受けます。子宮を移植することで、自分の子どもを自分で妊娠・出産することができるようになります。

母親や姉がすでに閉経している場合も、ホルモンの投与を受けることで、妊娠・出産の機能を備えた子宮を提供することができるようになります。
 
 
子宮の移植を受けた後、免疫抑制剤を服用しながら、一年以上かけて妊娠の準備をします。妊娠・出産が行われた後は、移植した子宮は摘出するため、その後は免疫抑制剤を服用する必要はありません。
 
 

①誰が望んでいるのか

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子宮が原因で妊娠・出産ができない人は、生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群(4000人〜5000人に1人の割合でかかる病気)の人を合わせて、20代から30代の女性だけでも日本に6万人いると言われています。(そのすべての人が妊娠を希望しているというわけではありません。)
通常の不妊治療は、体外受精卵子精子の提供などが一般的で、子宮に問題がある場合の不妊に対しては、代理出産という方法しかありませんでした。
 
 
代理出産の倫理的問題についてはこちら↓

②実施例 (海外)

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子宮移植は、番組で紹介されたスウェーデンを含めて、海外10か国で40例がすでに行われ、2018年1月時点で9人の子供が生まれているそうです。
 日本ではまだ実施例がありませんが、慶応大学や京都大学が臨床のための準備を進めています。
 
 

③費用(日本で実施される場合)

子宮移植の費用ですが、もし日本で実施されることになった場合、保険適用ではないため(子宮移植は病気を治すための移植ではないと考えられているからです)、手術費で200万円、その他入院費や、子宮を提供してくれるドナーの入院費が別にかかる見込みだそうです。
日本では子宮移植をはじめ、不妊治療は基本的に保険適用外です。(体外受精など、一部の治療については年齢や回数に制限があるものの、助成を受けることができます。)
一方、番組で紹介されたスウェーデンでは、不妊は病気だと認められ、不妊治療は保険適用になっているそうです。(スウェーデンはそうした福祉面での援助が多い分、普段の税金がとても高いのですが。)
 
 

④法律

日本には、脳死者からの移植について臓器移植法がありますが、子宮はこの法律の対象外で、現状では脳死者からの移植はできません。ただ、生体移植に関しては法規制はないといいます。子宮移植は緊急に命に関わる場合の臓器移植ではないうえ、子宮を移植したのち子供を出産した後その子宮は摘出する、いわば一時的な移植であるなど、他の生体移植とは異なる面が多いので、今後個別な法整備が必要になるかもしれません。
 
 
 

子宮移植の倫理的問題

①健康な人にメスを入れていいのか

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子宮移植は、出産の過程で起きるリスクを自分で負うため、代理母に子供を産んでもらう代理出産より倫理的な問題が少ないという考え方もあります。しかし、子宮を生体移植で提供する場合、子宮の病気にかかって子宮を摘出する場合と異なり、より大きくおなかを開き、摘出後に移植がしやすいようより慎重に摘出するため、手術時間も長くなるなど、子宮を提供するドナーへの負担は結局大きいといいます。
また、子供を持ちたいという願いが叶えられるよう選択肢が広がるのはいいことですが、命に関わる病気を治すためではない移植のために健康な人の子宮を摘出してよいのか、意見が分かれます。
 
 

免疫抑制剤の影響

子宮にかかわらず、臓器移植を受けた場合には、体の中で拒絶反応が起きないよう免疫抑制剤を服用します。どの臓器の提供を受けた場合でも、この免疫抑制剤を服用しながら子供を妊娠・出産できることは臨床的にも判明しています。今回取り上げた子宮移植でも、服用する免疫抑制剤は胎児に直接悪影響を及ぼさないことがわかっています。しかし、この赤ちゃんが大きくなった後、生まれてから20年,30年経ってからも、この免疫抑制剤が身体に影響を及ぼさないかは、実はまだわかっていないといいます。長期的な影響がまだわかっていないうちに子宮移植を実施してしまっていいのか、懸念が残ります。
 
 

③母や姉(ドナー)への社会的圧力

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子宮移植が普通に行われるようになったとき、「母親だから提供するのは当たり前」といったプレッシャーがドナーにかかることが考えられます。提供するかどうか最終的に決定するのは本人と言いながら、世の中の流れもあって、断りづらい環境ができてしまうことは今の日本では容易に想像できます。技術が進歩して、子宮移植がより安全に簡単に行われるようになったとしても、提供する・しない、妊娠する・しないといった選択肢の多様性が認められる社会であってほしいと願います。
 
 

私たちにできること

不妊治療の一つとして身近なものになってくる「子宮移植」だが、まだまだ問題が多いことを知ること

・子宮を提供する側・される側の意思を尊重すること

 

 

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生まれる前から親がいない?ー冷凍保存された受精卵から生まれること(死後生殖)

2018年4月17日

こんにちは、まなです。

交通事故で亡くなった中国人夫妻が冷凍保存していた受精卵を、代理母に移植して、赤ちゃんが生まれたことがニュースになりました。

www.huffingtonpost.jp

 

というわけで今回は、冷凍保存していた胚や配偶子を用いた妊娠・出産、死後生殖について考えてみます。

 

ざっくりいうと…

・冷凍していた受精卵を使って親の死後に子供が生まれることがある

・生まれてくる子供の幸せや、亡くなった両親の意思を巡って議論になる

・技術の進歩に合わせた法整備と、社会での周知が求められる

 

  

 

記事内容

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4年前に交通事故で亡くなった中国人夫妻は、不妊治療で受精卵を冷凍保存していました。その受精卵を家族がラオス出身の女性に移植し、2017年12月に男の子が生まれます。

夫妻はともに一人っ子だったため、双方の両親にとって待望の孫でした。

夫妻の両親たちは受精卵を引き継ぐため裁判を起こすとともに、中国では禁止されている代理出産を行うために、海外で代理母を探したと言います。

彼らはこの男の赤ちゃんを育てるとともに、将来彼に本当のことを伝えるつもりでいます。

 

考えられる問題

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今回の件では、代理出産の是非、保存された受精卵を使っての生殖などが議論になります。

一般に「死後生殖」凍結保存しておいた夫の精子を使って体外受精をすることを言い、例えば、生まれた子供が夫婦の子供として認知されない、といった問題が起きていますが、今回は冷凍保存していた胚=受精卵を使った生殖について考えてみます。

代理出産の問題点についてはこちら↓)

http://aimee-mehren.hatenablog.com/#%E4%BB%A3%E7%90%86%E5%87%BA%E7%94%A3%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%80%AB%E7%90%86%E7%9A%84%E5%95%8F%E9%A1%8C

 

ちなみに日本では、親の死後にその胚を利用することは、日本産科婦人科学会の会告で禁止されています。(死後生殖に関する法律はまだ整備されていません。)

 

 

冷凍保存していた胚を使用することの問題点 ①子供にとって

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冷凍保存されていた受精卵を使って生まれた子供は、生まれた時から、(というか生まれる前から)親がいない、という不自然な状況で生まれてくることになります。

遺伝的な親がいないことによる、子供のアイデンティティへの影響は無視することはできませんし、当然、遺伝的両親に育てられることがもっとも望ましいと言えます。

ただ、社会的なハンディキャップを背負う可能性が高いからといって、遺伝的両親がいないという理由だけで、この子が生まれない方が幸せだとまでは言えません

(遺伝的な両親から育てられないケース、つまり養子縁組やあるいはシングルマザーによって育てられる子供は増えていますが、そうした子供たちが、両親がいないという理由だけで不幸であるとは言えないでしょう。)

 

 

冷凍保存していた胚を使用することの問題点 ②亡くなった両親の意思

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受精卵の保存やその使用については、不妊治療における生殖補助医療を実施するたびに、両親の意思を確認することが重要視されます。

当人たちの死後には、その意思を撤回することができないため、生前にそうした生殖方法を望んでいたとしても、それを本人たちの意思として実施に反映させて良いのか議論が残ります。

今回のケースでは、不妊治療を受けるほど夫妻は子供を持つことを望んでいたことから、血の繋がった子供を残したいと願うはずだと判断されました。

 

 

大事なことは…

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まずは、生まれてきたこの男の子が、両親がいない中で、祖父母や周りの人たちから大事に育てられることが願われます。

そして、受精卵の冷凍保存といった、生殖補助医療における技術がどんどん進歩する中で、様々なケースを想定した法整備が求められます。今回の件で言えば、両親の死後に受精卵を禁止するのかどうか、また、技術がすでに存在する以上、禁止することが難しいとすれば、そのようにして生まれた子供たちが不平等に扱われることのないような法律が必要だと言えるでしょう。

 

 

私たちにできること

・受精卵や、卵子精子を冷凍保存することの倫理的問題を知る。(自分の死後にも生まれ得る受精卵について、死後に自分では責任を取れない、ということ。)

・そのようにして両親がいない中で生まれ育つ子供が実際にいることを知るとともに、そうした子供・人を不当に差別しないこと。

 

 

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同性カップルが子どもをもつとき(男性編)ー養子縁組と代理出産

2018年2月19日

こんにちは、まなです。

 

イギリスの男性同士のカップルが、子供をもつことを公表し、ニュースになりました。

www.huffingtonpost.jp


今回は、男性カップルが「両親」となり子供を育てることや、「代理出産」の問題点について、考えてみます。

 

 ざっくりいうと…

  • 家族像が多様化している事例の1つ
  • 男性同士のカップルが子供を育てることに反対する人もいる
  • 代理出産にもいろんな倫理的問題がある
  • カップル間、代理母との関係づくりが重要だが、家族のあり方について可能性は広がっている

 

 

記事の内容

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水泳の飛込競技でオリンピック2大会連続銅メダルを獲得している、イギリスのトーマス・デーリー選手は、自らゲイであることを公表し、2017年にパートナーの男性とイギリスで結婚しています。

2018年2月14日に、「バレンタインデーおめでとう」のメッセージとともに、パートナーと赤ちゃんの超音波写真を公開しました。

写真以外の詳細は明らかになっていませんが、デーリー選手の広報担当者もふたりの最初の子供が生まれることを明かしています。

 

記事にもありますが、

男性同士のカップルが子どもをもつには代理出産か養子縁組が主な手段となります。

 

男性カップルが親になる①養子縁組

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同性のカップルが養子を受け入れて子供を育てることは、イギリスをはじめ、スウェーデン、オランダ、フランスでも認められています。

日本でも、2017年、大阪市が男性カップルを里親として初めて認めました。

www.tokyo-np.co.jp

一方で、母親がいない家庭で子供を育てるのはその子供にとって良くないと考える人もいます。

例えばフランスでは、2013年「同性婚」法案を可決し、養子縁組に関する権利なども与えられましたが、法案をめぐってはフランス中で大議論が起きていました。
法案に反対する人たちの中には、ホモセクシュアルを嫌悪し中絶にも反対してきた超保守派や、教会法「結婚は男女の愛の結び付き」を掲げ、同性結婚と彼らの養子縁組を「文明の終焉」「人類の均衡破壊」と主張するカトリック教職者もいましたが、

同性結婚は認めつつ「子供はパパとママが必要 ! 」「父・母という言葉を排除することは父・母という概念を取り壊すことになりかねない」と彼らの養子縁組に反対する人たちも多くいました。

確かに、男性カップルが養子をとることは、親の離婚や死別など、やむをえず父子家庭になる場合とは異なり、最初から母親のいないと分かった上で子供を育てていくことになるため、問題視する意見もあります。
しかし、家族のあり方が多様化している現代において、父子家庭では、あるいは母親がいなければ子供が幸せに育たない、ということはないと思います。
2人の父親が良好な関係を築いていればなおさら、子供が幸せに育つ環境は整えられるでしょう。


男性カップルが親になる②代理出産

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何らかの理由で子供を授かることができない夫婦が、代わりに第三者の女性に妊娠・出産してもらう代理出産ですが、
男性同士のカップルが代理出産で子供をもつ場合、養子縁組との一番の違いは、男性どちらか一方の遺伝子を受け継ぐことができる、ということです。

カップルのうちどちらか一方だけだとしても、自分たちの遺伝子上の子供が欲しいと考える人は多いでしょう。

 

さて、「代理出産」には、以下の2つの種類があります。
①夫の精子を女性の子宮に導入し、出産してもらう方法サロゲートマザー
体外受精技術を用いて、夫婦両人との遺伝的なつながりをもった子を、夫婦外の女性に出産してもらう方法=ホストマザー

男性同士のカップルの場合、主に①の方法をとることになります。卵子は健全だけれども、(子宮の病気などで)自分で産むことができない女性が代理出産を望むケースと同じです。(男性も、精子はあるけど自分では産めない状態、ですもんね。)

そのため、男性同士の代理出産サロゲートマザー方式の代理出産と同じ、以下のようなリスクがあることになります。

 

代理出産における倫理的問題

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①生命のリスク

出産者は時には生命の危険を負いながら、長い妊娠期間を過ごさなければならず、当然出産時にも、命に関わるリスクを負うことになります。

 

代理母心理的苦痛
胎児との間には確かな身体的絆が存在するとともに、遺伝的にも「実の親子」であるため、出産後に血縁関係をもてない時に心理的な苦悩を抱えることがあります。(「ホストマザー」方式であっても、生まれてくる子に深い愛情を感じて、実際に親権を主張し訴訟を起こす事例も発生しています)

 

③生殖機能の搾取につながる
女性の身体を「生殖のための手段」と認識せざるを得ない「代理母」という仕組みに対して違和感を覚える人もいます。

 

④産まれた子供の心理的苦痛
生まれてくる子供が、自らの出生について苦悩する可能性があります。(子供にとって、自らの出生の由来について知ることは、自身のアイデンティティの存立にとって極めて重大です。)

 

代理出産はアメリカ(一部の州)、 ギリシャ、ロシア、ジョージア(グルジア)そしてウクライナなどで合法化されており、イギリス、デンマーク、ベルギーなどでは、代理母に対して金銭の授受がない場合、もしくは妥当な出費のみを支払う場合において認められています。

日本では代理出産は認められていませんが、上記にあげた国で代理出産を行う事例は少なくありません。


代理出産を希望する場合には、上に挙げたような問題点も分かった上で、代理母がそれでもこのカップルのために子供を産む手助けがしたい、と思えるような関係づくりをすることが欠かせません。
また、将来子供が母親の存在を知りたくなったときにどう対応するのかも、よく話し合っておく必要があります。

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私たちにできること

  • 同性カップルでも子供をもちたいという需要が増えていることを知る
  • 養子縁組、代理出産にどのような問題があるのか知る(将来誰でも関わる可能性があります)
  • 問題も多いけれども、多様な家族像の1つを築く可能性が広がってきていることを知る


今回は、代理出産を中心に、男性カップルが子供をもつ時に生じうる生命倫理の問題を考えました。男女関係、家族のあり方、子供のもち方が多様化する社会では、新しい技術も新しいシステムもどんどん認められていく流れができやすいです。だからこそ、どんな問題があるのか、確認しておくようにしたいですね。

 

また次回も

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