aimee-mehren’s blog

生命倫理を専攻する大学院生のブログ

「延命治療をしない」ー本当に本人の意思を尊重するためにー

2018年9月18日

 

こんにちは、まなです。

 

2018年9月6日、以下のような記事が朝日新聞に掲載されました。

www.asahi.com

 

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最期の時に延命治療を望まない患者さんにどのように対応したらよいのでしょうか。生命倫理の視点から考えます。

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ざっくりいうと…

・最期の時、蘇生を望まない人が増えている
・事前に「延命拒否」の意思を表明しておくことが重要
・ただし本人の「自由で」「自発的な」意思であることが大事
・家族も勝手に判断しないよう注意が必要

 

 

 

記事内容

救急現場で、患者の心肺蘇生を拒否する意思を、家族や介護職員、医師が救急隊員に伝えるケースが増えています。蘇生中止に関しては規定がないため、救急隊員は難しい判断を迫られると言います。

心肺蘇生を拒否する医師が示された場合、対応方針を決めている消防本部(全体の45.6%)では、「心肺蘇生を実施しながら医療機関に搬送する」、「医師からの指示など一定の条件の下、蘇生を実施しない、または中断できる」といった措置をとっているそうです。

救急車を呼んだ家族は、病状が急変したり悪化した患者を前に、「気が動転、パニックになった、どうしたらいいかわからない」という理由で119番通報をしている場合が多く、また「家族間の情報共有不足や意見の不一致」が理由のこともあります。本人や家族が蘇生を望んでいなかったとしても、遠い親戚が救急車を呼ぶべきだと異議を唱えることもあるのです。

厚生労働省が3月に改定した終末期医療の指針では、最終段階で受けたい治療やケアを家族や医療者と話し合って記録に残す「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の考えが盛り込まれることになりました。

 

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患者の権利

最期の時に蘇生を望まないなど、治療を拒否する権利は、現代では患者の権利の一つとして一般的に認められています。

1973年に米国病院協会が公表した「患者の権利章典」には以下のような権利が盛り込まれました。
・尊敬を持って処遇される権利
・診断や予後に関するすべての情報を提供される権利
治療を拒否する権利、治験参加を拒否する権利
・プライバシー秘密が保持される権利
・医療提供の要求に合理的な対応を受ける権利

また、1981年以降何度か修正を重ねている「患者の権利についての世界医師会のリスボン宣言」でも、
・良質の医療を受ける権利
選択の自由の権利
自己決定の権利
・情報を得る権利
守秘義務に対する権利
・健康教育を受ける権利
・尊厳に対する権利
・宗教的支援に対する権利
などが謳われています。従来の医の倫理が重視した患者の利益だけでなく患者の自律を保障したことはリスボン宣言の意義の一つと言われています。

このように、現在当たり前のように守られるべきとされている権利と同列に「治療を拒否する権利」は認められているのです。

 

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本人の意思

医療行為を行う際、患者本人の自由で自発的な同意を得ることは「人間の尊厳」を守る上で重要です。

例えば、本人の個人的な価値観に基づく治療拒否の意思を無視して、「本人のため」と治療を強行することや、反対に、介護する家族に「迷惑をかけたくない」という理由で延命措置を拒否することも、本人の自由で自発的な意思が十分に保障されていないので「人間の尊厳」が尊重されていないことになります。

回復の見込みがない末期状態の患者に対して、延命治療を開始せず、あるいは開始した延命治療を中止して、人間としての尊厳を損なわずに死を迎えさせることは、「尊厳死」とも呼ばれていますが、本当にその患者さんの尊厳が尊重されるためには、それが本当に本人の自発的な意思によるものなのか確認することが欠かせないと言えます。

 

 

事前指示

終末期に、意識がなくなってしまうなど自分の意思を表明できなくなった時のために、終末期医療に関する意向をあらかじめ表明しておく、口頭や書面の意思表示を「事前指示」と言います。

事前指示に関して、日本には法律はありませんが、一定の要件が満たされていれば法的にも有効だと考えられています。

また、2008年に出された日本医師会の『終末期医療に関するガイドライン』でも「患者の口頭による意思表示のほかに、患者が正常な判断ができない状態では、患者の事前の文書による意思表示を確認することが重要である」としています。

事前指示には、「本当に患者がそう思っているのかわからない」という問題もあります。例えば、患者が事前指示を作成した後に考えを変えるかもしれませんし、事前指示を作成した後に認知症になるなどしてその性格が大きく変わってしまうかもしれません。また、事前指示を作成した後に新しい治療法が開発されるなど、周囲の状況が変化することもあり得るので、そうした将来の状況を正確に予想して事前に適切に指示しておくことなどできない、という考えもあります。

そのため、事前指示を作成する際には、患者が医療チームとよく話し合うことや、医療チームや家族と相談しながら事前指示を定期的に見直すことが求められます。また、事前指示を作成した後に患者の性格が変わった時には、患者に苦痛がない場合は事前指示を適用しないことも必要かもしれません。

 

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家族の意思

本人の意思がはっきりとわからず、事前指示もない場合には、家族が代理で判断することもあります。今回の記事で蘇生拒否の意思を救急隊に伝えていたのも多くが家族でした。
しかし、本人の意思や利益に反する決定が下される可能性も出てきてしまいます。例えば、遺産相続に関わる場合や、「迷惑な存在のやっかい払い」とみなされうる治療拒否などです。

家族が判断するというよりは、家族が本人の意思を「代弁」できるためにも、やはり事前に緊急時の蘇生について(家族や医師など複数の人に)話しておくこと、書面で残しておくことが大事だと言えるでしょう。そのことが、家族に心の準備を促し、緊急時にパニックを起こすのを防ぐことにもつながるかもしれません。

 

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私たちにできること

・自分が終末期になった時には、事前に意思表示しておく
・周りに終末期の人がいる時には、その人の意思を聞き、話し合っておくようにする

(近しい家族でなくても、いろんな立場の人が聞いてあげることが大事な時もあります。むしろ近しい家族にはなかなか言えないこともあるかもしれません。)

(また、家族の立場として、本人が死ぬことについては話しづらいという人もいるでしょう。蘇生拒否の強い意思がなければ、患者さんは何も言わないかもしれませんし、わざわざ無理して聞き出すことはしなくていいかもしれませんね。)

 

また次回も

生命倫理に関する記事を上げていきます。

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