aimee-mehren’s blog

生命倫理を専攻する大学院生のブログ

「子宮移植」の問題点ー(倫理的な問題を考える)

2018年5月10日
 
こんにちは、まなです。
 
今月7日、クローズアップ現代というNHKの番組で、「子宮移植」が特集されました。
 
今回は「子宮移植」の倫理的問題について考えます。
 
 
ざっくりいうと…
不妊治療の新たな希望として「子宮移植」が注目されている
・子宮を提供するドナーへの身体的・社会的影響が心配される
・生まれてくる子供への影響についてまだわかっていない
 
 

子宮移植とは

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子宮移植は、子宮がない、あるいは子宮が十分に機能しないために子どもを産むことができない人が、主に母親や姉から子宮の移植を受けます。子宮を移植することで、自分の子どもを自分で妊娠・出産することができるようになります。

母親や姉がすでに閉経している場合も、ホルモンの投与を受けることで、妊娠・出産の機能を備えた子宮を提供することができるようになります。
 
 
子宮の移植を受けた後、免疫抑制剤を服用しながら、一年以上かけて妊娠の準備をします。妊娠・出産が行われた後は、移植した子宮は摘出するため、その後は免疫抑制剤を服用する必要はありません。
 
 

①誰が望んでいるのか

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子宮が原因で妊娠・出産ができない人は、生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群(4000人〜5000人に1人の割合でかかる病気)の人を合わせて、20代から30代の女性だけでも日本に6万人いると言われています。(そのすべての人が妊娠を希望しているというわけではありません。)
通常の不妊治療は、体外受精卵子精子の提供などが一般的で、子宮に問題がある場合の不妊に対しては、代理出産という方法しかありませんでした。
 
 
代理出産の倫理的問題についてはこちら↓

②実施例 (海外)

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子宮移植は、番組で紹介されたスウェーデンを含めて、海外10か国で40例がすでに行われ、2018年1月時点で9人の子供が生まれているそうです。
 日本ではまだ実施例がありませんが、慶応大学や京都大学が臨床のための準備を進めています。
 
 

③費用(日本で実施される場合)

子宮移植の費用ですが、もし日本で実施されることになった場合、保険適用ではないため(子宮移植は病気を治すための移植ではないと考えられているからです)、手術費で200万円、その他入院費や、子宮を提供してくれるドナーの入院費が別にかかる見込みだそうです。
日本では子宮移植をはじめ、不妊治療は基本的に保険適用外です。(体外受精など、一部の治療については年齢や回数に制限があるものの、助成を受けることができます。)
一方、番組で紹介されたスウェーデンでは、不妊は病気だと認められ、不妊治療は保険適用になっているそうです。(スウェーデンはそうした福祉面での援助が多い分、普段の税金がとても高いのですが。)
 
 

④法律

日本には、脳死者からの移植について臓器移植法がありますが、子宮はこの法律の対象外で、現状では脳死者からの移植はできません。ただ、生体移植に関しては法規制はないといいます。子宮移植は緊急に命に関わる場合の臓器移植ではないうえ、子宮を移植したのち子供を出産した後その子宮は摘出する、いわば一時的な移植であるなど、他の生体移植とは異なる面が多いので、今後個別な法整備が必要になるかもしれません。
 
 
 

子宮移植の倫理的問題

①健康な人にメスを入れていいのか

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子宮移植は、出産の過程で起きるリスクを自分で負うため、代理母に子供を産んでもらう代理出産より倫理的な問題が少ないという考え方もあります。しかし、子宮を生体移植で提供する場合、子宮の病気にかかって子宮を摘出する場合と異なり、より大きくおなかを開き、摘出後に移植がしやすいようより慎重に摘出するため、手術時間も長くなるなど、子宮を提供するドナーへの負担は結局大きいといいます。
また、子供を持ちたいという願いが叶えられるよう選択肢が広がるのはいいことですが、命に関わる病気を治すためではない移植のために健康な人の子宮を摘出してよいのか、意見が分かれます。
 
 

免疫抑制剤の影響

子宮にかかわらず、臓器移植を受けた場合には、体の中で拒絶反応が起きないよう免疫抑制剤を服用します。どの臓器の提供を受けた場合でも、この免疫抑制剤を服用しながら子供を妊娠・出産できることは臨床的にも判明しています。今回取り上げた子宮移植でも、服用する免疫抑制剤は胎児に直接悪影響を及ぼさないことがわかっています。しかし、この赤ちゃんが大きくなった後、生まれてから20年,30年経ってからも、この免疫抑制剤が身体に影響を及ぼさないかは、実はまだわかっていないといいます。長期的な影響がまだわかっていないうちに子宮移植を実施してしまっていいのか、懸念が残ります。
 
 

③母や姉(ドナー)への社会的圧力

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子宮移植が普通に行われるようになったとき、「母親だから提供するのは当たり前」といったプレッシャーがドナーにかかることが考えられます。提供するかどうか最終的に決定するのは本人と言いながら、世の中の流れもあって、断りづらい環境ができてしまうことは今の日本では容易に想像できます。技術が進歩して、子宮移植がより安全に簡単に行われるようになったとしても、提供する・しない、妊娠する・しないといった選択肢の多様性が認められる社会であってほしいと願います。
 
 

私たちにできること

不妊治療の一つとして身近なものになってくる「子宮移植」だが、まだまだ問題が多いことを知ること

・子宮を提供する側・される側の意思を尊重すること

 

 

 また次回も

生命倫理に関する記事を上げていきます。

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