aimee-mehren’s blog

生命倫理を専攻する大学院生のブログ

生まれる前から親がいない?ー冷凍保存された受精卵から生まれること(死後生殖)

2018年4月17日

こんにちは、まなです。

交通事故で亡くなった中国人夫妻が冷凍保存していた受精卵を、代理母に移植して、赤ちゃんが生まれたことがニュースになりました。

www.huffingtonpost.jp

 

というわけで今回は、冷凍保存していた胚や配偶子を用いた妊娠・出産、死後生殖について考えてみます。

 

ざっくりいうと…

・冷凍していた受精卵を使って親の死後に子供が生まれることがある

・生まれてくる子供の幸せや、亡くなった両親の意思を巡って議論になる

・技術の進歩に合わせた法整備と、社会での周知が求められる

 

  

 

記事内容

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4年前に交通事故で亡くなった中国人夫妻は、不妊治療で受精卵を冷凍保存していました。その受精卵を家族がラオス出身の女性に移植し、2017年12月に男の子が生まれます。

夫妻はともに一人っ子だったため、双方の両親にとって待望の孫でした。

夫妻の両親たちは受精卵を引き継ぐため裁判を起こすとともに、中国では禁止されている代理出産を行うために、海外で代理母を探したと言います。

彼らはこの男の赤ちゃんを育てるとともに、将来彼に本当のことを伝えるつもりでいます。

 

考えられる問題

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今回の件では、代理出産の是非、保存された受精卵を使っての生殖などが議論になります。

一般に「死後生殖」凍結保存しておいた夫の精子を使って体外受精をすることを言い、例えば、生まれた子供が夫婦の子供として認知されない、といった問題が起きていますが、今回は冷凍保存していた胚=受精卵を使った生殖について考えてみます。

代理出産の問題点についてはこちら↓)

http://aimee-mehren.hatenablog.com/#%E4%BB%A3%E7%90%86%E5%87%BA%E7%94%A3%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%80%AB%E7%90%86%E7%9A%84%E5%95%8F%E9%A1%8C

 

ちなみに日本では、親の死後にその胚を利用することは、日本産科婦人科学会の会告で禁止されています。(死後生殖に関する法律はまだ整備されていません。)

 

 

冷凍保存していた胚を使用することの問題点 ①子供にとって

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冷凍保存されていた受精卵を使って生まれた子供は、生まれた時から、(というか生まれる前から)親がいない、という不自然な状況で生まれてくることになります。

遺伝的な親がいないことによる、子供のアイデンティティへの影響は無視することはできませんし、当然、遺伝的両親に育てられることがもっとも望ましいと言えます。

ただ、社会的なハンディキャップを背負う可能性が高いからといって、遺伝的両親がいないという理由だけで、この子が生まれない方が幸せだとまでは言えません

(遺伝的な両親から育てられないケース、つまり養子縁組やあるいはシングルマザーによって育てられる子供は増えていますが、そうした子供たちが、両親がいないという理由だけで不幸であるとは言えないでしょう。)

 

 

冷凍保存していた胚を使用することの問題点 ②亡くなった両親の意思

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受精卵の保存やその使用については、不妊治療における生殖補助医療を実施するたびに、両親の意思を確認することが重要視されます。

当人たちの死後には、その意思を撤回することができないため、生前にそうした生殖方法を望んでいたとしても、それを本人たちの意思として実施に反映させて良いのか議論が残ります。

今回のケースでは、不妊治療を受けるほど夫妻は子供を持つことを望んでいたことから、血の繋がった子供を残したいと願うはずだと判断されました。

 

 

大事なことは…

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まずは、生まれてきたこの男の子が、両親がいない中で、祖父母や周りの人たちから大事に育てられることが願われます。

そして、受精卵の冷凍保存といった、生殖補助医療における技術がどんどん進歩する中で、様々なケースを想定した法整備が求められます。今回の件で言えば、両親の死後に受精卵を禁止するのかどうか、また、技術がすでに存在する以上、禁止することが難しいとすれば、そのようにして生まれた子供たちが不平等に扱われることのないような法律が必要だと言えるでしょう。

 

 

私たちにできること

・受精卵や、卵子精子を冷凍保存することの倫理的問題を知る。(自分の死後にも生まれ得る受精卵について、死後に自分では責任を取れない、ということ。)

・そのようにして両親がいない中で生まれ育つ子供が実際にいることを知るとともに、そうした子供・人を不当に差別しないこと。

 

 

また次回も

生命倫理に関する記事を上げていきます。

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