aimee-mehren’s blog

生命倫理を専攻する大学院生のブログ

「がん、遺伝するかも…」子供をもつ前に考えたいことー遺伝性がんと遺伝子検査ー

こんにちは、まなです。

 

朝日新聞の「患者を生きる」という連載コーナーに、1/29から2/2にかけて、遺伝性がんの女性の事例が紹介されていました。

www.asahi.com

 

自分が遺伝性がんの可能性がある場合、どのように対処したらいいのでしょうか?また、がんとは関係なく昨今流行っている「遺伝子検査」にはどのような問題があるのでしょうか?

 

ざっくりいうと…

  • 子供への遺伝が心配なときは遺伝子検査を受けた方がいい
  • 遺伝子情報を知ってしまうことのデメリットをわかっておく
  • よく相談しながら検査
  • 遺伝子情報による差別に注意!

 

 

記事内容

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女性は幼い頃に網膜芽細胞腫という目にできるがんにかかりました。このがんは親の遺伝子変異を受け継いだことで発症することが少なくありません。同様にその遺伝子が子供に引き継がれることもあります。

女性は生後3ヶ月で片目を摘出、もう片方の目もその後抗がん剤治療を受けました。いずれも幼い頃に治療が終了し、現在は片目が盲目でありながらも、特に不自由を感じることもなく、生活していました。やがて結婚し子供を出産します。

1人目の長男に異常がなかったことから安心していましたが、2人目の次男には両目に腫瘍が見つかりました。

「(検査で遺伝子異常が)わかったとしても産まない選択をするわけではないだろ?」というご主人の励ましもあって出産に踏み切ることができた女性でしたが、子供のリスクをあらかじめ知っておくためにも自分自身の遺伝子に変異があるか確認する検査を受けるべきだったと、後悔した体験を記事では語ってくださっています。

 

親から子へ遺伝子異常が受け継がれることで発症しやすいがんは、「網膜芽腫瘍」のほかに以下のものがあります。


・家族性大腸ポリポーシス
・リンチ症候群(大腸がん)
・遺伝性乳がん
・遺伝性卵巣がん

このうち、記事で紹介された女性の「網膜芽腫瘍」と「リンチ症候群」に関する遺伝子検査は、公的医療保険が適用されますが、その他のがんについては、現在のところ遺伝子検査に保険がきかないようです。

遺伝性がんについては医療機関にある「遺伝相談外来」などで相談できるようです。まどぎちや遺伝子検査をしている施設の検索はこちら

登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム

 

コメント

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いずれのがんも幼い頃や若い頃から発症することが多く、早期発見・早期治療が望まれます。そうしたことを鑑みれば、全ての遺伝性がんについて、親や生まれたばかりの子供が遺伝子検査を受けられるように、保険適用が急がれるべきだと思います。

また、今回の記事には「遺伝性がんについては、そもそも日本人のデータが不足している。検査後の予防法が確立していない場合が多い」とありました。今後、遺伝子異常が発見されたあとの予防策に関してより研究が進むことを願います。

 

さて、このように、子供に遺伝子異常が受け継がれることが心配される場合、早期発見のためにも遺伝子検査は行われるべきだと書きましたが、この「遺伝子検査」には倫理的問題もあります。

 

遺伝子検査の倫理的問題

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遺伝子検査にはまず、「知らないでいる権利」という問題が関わってきます。

遺伝子検査に対して、その検査でわかる病気の治療法がない場合、ただ遺伝子をもっているとだけ知らされることは、自身の病気に対する恐怖を増大させるだけだ、と考える人もいます。
重要なのは知っているかどうかではなく「いつ知るか」という点であり、「今は知らないでおく」ことを選択できる自由が求められます。
これは「''今は''知らないでいる権利」であるので、一度知らないことを選んだからといって、この先一生知らないでいることを選んだことには、もちろんなりません。

 

遺伝子検査には、「遺伝子情報が差別に使われるおそれがある」という倫理的懸念もあります。
ある人が何らかの病気になるリスクを人より多くもっていたとき、生命保険の加入や、長期ローンの審査だけでなく、就職結婚でも不利にはたらくことがあるかもしれません。


また、「知らないでいる権利」にも関わりますが、調べたかった病気とは関係のない遺伝子の異常や特徴がわかった場合、医師はその内容を本人に知らせるべきか、という問題もあります。

 

考えられる方策

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こうした懸念に対しては、いくつかの方策が考えられます。
まずは、どの病気についてどの程度まで知りたいかを事前に話し合って、患者本人に決めてもらい、第三者への開示は禁止する、というものです。


一方欧米諸国では、情報が他者に知られることを見越して、すでに遺伝子差別禁止法が制定されているそうです。

 

私たちにできること

①自分に遺伝性がんの可能性があり、子供をもつことを望む場合

遺伝子検査をしたほうがいい

…遺伝子異常が発見されても100%がんになるわけではありませんし、逆に異常がなかった場合でも100%安心できるわけではありませんが、早期発見が望まれることについて、リスクの大きさを知っておくことはやはり重要なことだと思います。それが子供のためだったらなおさらです。(だからこそ、保険適用、早くしてほしいですね…)

遺伝子検査をしている施設はこちら

登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム

 

②特に子供をもつ予定がない、あるいは遺伝性がんの可能性があるか全くわからないで遺伝子検査を望む場合

→自分の遺伝子異常について知ったことで余計に怖くなってしまうかもしれないといったリスクもわかった上で、何が知りたいのかを明確にして、よく相談しながら検査を受けること
遺伝子検査の結果をむやみに公表しないこと

 

③そして何より、遺伝子異常が発覚している人をどういう形であれ差別しないこと


…遺伝子検査を受けて、どういう遺伝子をもっているかわかったところで、そのひとが最終的にどのような病気にかかるか、いつどのように死ぬか、といったことは結局は誰にもわかりません。
…本来なら本人も含めて誰も知りようがない遺伝子情報(誰もがそれぞれの遺伝子情報を知っているのが当たり前な時代が来るかもしれませんが、それでも)をもって、人に優劣がついたり、人の人生が決められてしまうなんてこと、やはりあってはならないことでしょう。

 

また次回も

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